ジェンダー フェミニズム

日本では男性より女性の方が優遇されている? – 女性専用車両やレディースデーは男性差別なのか –

世界でも有数な経済大国である日本ですが、男女平等という観点で言うと必ずしも先進国ではありません。世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表するジェンダー・ギャップ指数では、最新の2021年は120位、かつ毎年のように同じような低い順位です。その他、ドイツ11位、フランス16位、英国23位、カナダ24位、米国30位、イタリア63位で、日本はG7の中で圧倒的に最下位。同じアジアの国々でも、韓国は102位、中国は107位と、日本よりも上位です。

そんな日本で、この順位の話をしても、あまりピンと来ない人が多いのが現実です。今の環境が普通だと思っている女性が多いことに加え、男性(女性)の中には日本の女性は優遇されているとさえ主張する人もいます。女性専用車両だって、映画館のレディースデーだってそうだ、男性ばかり損をする、そんな男性の主張も耳にします。それを数字で示している面白い調査があるのでご紹介いたします。

電通総研が2021年に行った調査によると、『社会全体で日本は男女平等になっているか』という問いに対して、男性の方が優遇されていると答えた人は女性75%だったのに対して、そう答えた男性は54%となり、そこに20ポイント以上の差がありました。それだけでなく、反対に女性の方が優遇されていると答えた人は、女性では5.6%だったのに対し、男性でそう答えたのは12.1% と女性の約2倍でした。男女の意識の違いが数字で現れている、非常に面白い調査ですね。

電通総研より

本記事の目的は、この社会で男性か女性、どちらが優遇されているか、という問いに答えるものではありません。この問いは簡単に白黒付けられるものではなく、場面によって全く状況が変わってくるものです。例えば賃金格差や政治、会社の経営層など社会の多くの場面を見れば男性が優遇されているという意見が一般的ですが、一方で養育権や親権、育児休暇の取得などを見ると女性が優遇される傾向にあるというのも事実です。(男性らしさの呪いとしてトキシック・マスキュリにティについてはこちらの記事でも取り上げましたね)

その前提をお伝えした上で、本日フォーカスするのは女性の方が優遇されているという理由としてよく聞く「女性専用車両は男性差別だ」という意見と、「レディースデーは男性差別だ」という意見について、筆者の見解をご紹介します。

女性専用車両は男性差別なのか? – 女性専用車両ができた背景 – 

この話をするには、まず女性専用車両ができた背景を見ていく必要があります。女性専用車両は、遡ること明治時代に婦人専用車両として始まったものですが、当初は男女が同じ車両に乗ることは好ましくない、という風紀的な意味で始まったようです。これは廃止されたり再開されたりを繰り返していたようです。今の痴漢防止という意味での女性専用車両の始まりのきっかけは、1988年に現大阪メトロ御堂筋線で起こった、痴漢行為を行った男性に対して注意をした女性が逆恨みされレイプ被害に合うという痛ましい事件で、それを機会に、痴漢防止の意味での女性専用車両の必要性が叫ばれるようになりました。そこからかなり時間がかかりましたが2000年から徐々に全国の鉄道会社が女性専用車両を導入し始めました。

ご存知の通り、日本は痴漢大国。電車以外での被害も含めていますが、痴漢の年間検挙数は2018年の数だと2777件、しかしこれは氷山の一角です。なぜなら痴漢にあった人のうち駅員や警察へ相談をした人は1割以下であるというデータもあるためです。鉄道会社は駅のホームなどに『痴漢は犯罪です』といった防止のポスターなどを貼って防止策を講じていますが、そもそも『痴漢は犯罪』という当たり前のことをポスターにして言う必要があるという低レベルさに驚きです。また、 #WeToo Japan の調査によると、女性の7割は公的な場で何らかのハラスメント行為にあったことがあると答えており、性的なハラスメントにあったことがある人も5割近くに上りました。ハラスメント、特に性的なハラスメントは心に深い傷を残す傾向にあり、精神的な苦痛も大きいものです。これらの数字を見ると、女性専用車両の必要性は明らかです。

鉄道会社の公式な見解もみてみましょう。女性専用車両を導入する目的に関しては、大阪メトロの公式ホームページにこのような回答がありますのでご紹介します。

当社では、女性の自立や男女共同参画社会を目指す社会情勢の中で、チカン行為そのものをなくすことが本来と考え、鉄道警察隊などと連携し、チカン追放キャンペーンの実施や駅職員の巡視等による自主警備、車内及び駅構内での啓発放送、駅構内での啓発ポスターの掲示など様々な取組みを行ってきています。

しかし、現実にチカン行為は無くならず、被害に遭われた女性の方が深く精神的な苦痛を受け、社会参画に支障が出ることがあることなどから輸送の安全性の確保なども総合的に判断し、チカン行為から女性を保護するという趣旨で女性専用車両を導入しました。

大阪メトロ 公式HPより

大阪メトロの見解の通り、本来は痴漢行為そのものをなくすことが最優先であり根本的な解決策です。しかし現実はそう簡単にはいきません(痴漢は犯罪だということを言わないといけないくらい、低レベルなんですからね)。痴漢行為そのものをなくす努力をしつつも、なくなるまでは苦肉の策として、被害に遭う女性が精神的な苦痛がない状態で電車を利用できるように、女性専用車両を導入した、ということですね。

女性専用車両は万全ではない

一方で、この策は完璧な策ではありません。なぜなら、痴漢の被害者は女性だけではなく、加害者も男性だけではないからです。男性が被害者になることもあれば、女性が加害者になることもあるからです。このことに関しては残念ながら女性専用車両のみでは解決ができていません。しかし、痴漢被害者の9割以上が女性であるという事実を踏まえて、女性専用車両という形になっているのです。また、女性専用車両は女性以外を禁止してはおらず、強制力や罰則もなく、あくまでも協力を呼びかけているというものです。男性の方であっても子どもや介助者や障がいのある方などは利用できるということにしている鉄道会社が多いということもポイントですね。

女性専用車両が一部の人に男性差別だと認識されるのはどうしてか – 平等と公平の違い

では一部の男性から見て、女性専用車両が女性を優遇しているように見えるのはどうしてでしょうか。ここに男性がなぜ女性専用車両が男性差別だと思うかのデータがあります。女性専用車両に反対する人にその理由を聞いたところ、一番多かったのが、『男性差別だと感じる』が44%、『他の車両が混雑してしまうため不公平だと感じる』が32%でした。

一番多い、『男性差別だと感じる』という意見に関してですが、これは正当な主張なのでしょうか。差別とは、「あるものを、正当な理由なしに、他よりも低く扱うこと」です。女性専用車両はこれに当てはまるでしょうか。私はNoだと思っています。女性専用車両は、痴漢被害者の9割以上である女性を痴漢被害から守るという正当な理由がありますし、女性専用車両は男性を低く扱うものでは全くありません。女性専用車両は女性専用電車ではありませんので、男性も車両を変えれば同じ電車に乗ることができます。男性も女性にも痴漢による精神的な苦痛がない状態で同じ電車を利用する公平さという視点で見れば、女性専用車両があってこそ、公平が実現されるのではないでしょうか。

次に、他の車両が混雑してしまう、女性専用車両はすいているという意見についてです。これは多くの場合事実ではありますが、そもそも痴漢をなくすには、満員電車を作らない、これが非常に有効な解決策の一つです。よって、女性専用車両は満員になっていない状態だからこそ機能するものとなります(加害者が女性である可能性もある訳ですからね)。空いている女性専用車両に矛先を向けるよりも、混んでいる他の車両を満員にしないことを考える方がより全員が幸せになりますよね。

女性専用車両は平等よりも公平を重視した施策

こちらの記事で、Equality 平等と Equity 公平の違いは説明しましたが、まさに女性専用車両は平等よりも公平を重視した施策となります。誰もが痴漢の心配など被害による精神的苦痛を受けない状態で電車に乗車できることを目指した施策となります。何度も言うように、この施策は完璧ではありません。痴漢の被害に遭う男性を救済できていないからです。そうなるとやはり、根本的な解決が必要になってきます。そしてその根本的な解決策とは、満員電車で痴漢の加害者がいなくなることですが、これが難しいとなると、もう一つの有効な解決策として痴漢させる環境を作らない=満員電車をなくす、ということがあります。満員電車がなくなると、人と人の距離が空きます。そのため、痴漢をする余地がほぼなくなります(してもすぐにばれます)。そのため、企業が在宅ワークを推奨したり、フレックスワークを導入したりし、朝の同じ時間に混むのを回避することや、鉄道会社側は電車の車両や本数を増やしたりすることが求められます。

満員電車が排除する人たち

満員電車が引き起こす問題は痴漢被害だけではありません。満員電車はたくさんの人を排除してしまっています。朝の満員電車に乗ることができるのは、多くの場合、健常者のみです。車椅子の人、妊娠をしている人、お年寄り、小さい子ども、ベビーカー、人混みが苦手な目に見えない障がいを抱える人など、たくさんの人を排除してしまっているのです。また、今の日本ではほとんどのホワイトカラーの仕事が平日の朝9時始業で、オフィスに来ることが必須となっているため、オフィス出社が必要な仕事を選択できるのは、一部の健常者のみ、ということになっています。「普通のサラリーマン」になるには、満員電車に乗って通勤するという高いハードルを超える必要があるのです。また、都市部のいわゆるホワイトカラーの仕事は賃金も高いため、このハードルを超えることができる一部の健常者のみが給与水準も高くなるという構造も生んでしまいます。これらのことを考えると、いかに満員電車をどうなくすか、ということが重要になるかが分かりますね。

コロナ禍になり、リモートワークを採用する企業が増えてきていたり、時差出勤を促すポスターがはられていたりと、各所で通勤ラッシュを減らす動きはありますが、それでもなお、都心の通勤は満員電車が多いのが実情です。


映画館のレディースデーは男性差別?

次に映画館のレディースデーについて見ていきましょう。一部の映画館では特定の曜日に女性のみ安い料金を提供するレディースデーや、飲食店では女性のみ利用できるレディースプランとして一般料金よりも安い価格で提供されているメニューなどがあります。これに対して、男性差別だ、という声もよく聞きます。これはまた上で紹介した女性専用車両とは違った特性を持つもののようにみえます。痴漢被害のような解決すべき社会課題がないにも関わらず、女性にのみ割引を提供しているからです。

ここでも考えてほしい公平性 – 男女の賃金格差 – 

これは鉄道会社などの影響する人が多い公共機関が実施しているものではなく、一部の映画館や飲食店が企業の戦略として実施しているものであるため、女性を呼び込むための戦略という側面もありますが、確かに同じサービスを男性が利用する場合、料金が高くなるという不利益があります。しかしここでも考えてほしいのが、公平性の視点です。日本の男女の賃金格差は大きく、男性の賃金水準に対する女性の賃金水準の割合を表した男女間賃金格差(男性=100)をみると、2019年は74.3%となっています。簡単に言うと、男性の平均賃金は1万円だけれど、女性は7430円しかもらえていない、ということですね。

このことを踏まえると、社会全体で見て、女性の賃金が少ないため、同じサービスでも女性に対して安い料金で提供することは公平性を実現するための正当な割引だと考えられます。あくまでも上記の賃金格差は平均であるので、個々の状況は違っているかとは思いますが考慮する価値はあるポイントですね。一方で女性にのみ割引を提供することに対して疑問視する声も多く、レディースデーを取りやめる決断をした映画会社もあるようです。


いかがでしたか?本記事では、個人的に女性専用車両やレディースデーは男性差別だ、という意見に対して感じた違和感から、本当にそうなのかについて、個人的な見解も含めてご紹介しました。自分の中でも整理しながら書いていったのですが、やはり女性専用車両やレディースデーについて、男性差別だ、という人は痴漢被害に遭う女性の数の実情や精神的な苦痛、男女の賃金格差などの大きな構図を見ずに、自分自身の目の前のことや自身の利益のみしか見ていないのではないかとより強く思いました。


 参考文献
 Sustainable Japan I 【国際】世界「男女平等ランキング2021」、日本は120位で史上ワースト2。G7ダントツ最下位
 朝日新聞 I 「日本は男性優遇」 女性75%、男性54% 電通調査
 電通総研 I 電通総研、ジェンダーに関する意識調査の結果を発表
 Wikipedia I 女性専用車両
 大阪メトロ I よくあるご質問
 セコム 女性のための安心ライフnavi I あんしんコラム
 PR Times I 女性専用車両に賛成する人は6割以上男性専用車両が必要と考える人は過半数
 リクルートワークス研究所 I 女性の賃金(2020年11月版)
 Buzfeed News I 女性の7割が電車や道路でハラスメントを経験。「実態調査」でわかったこと 

コメントを残す