広告リテラシーを身につけよう – 広告に自己肯定感や価値観を左右されないために
みなさんこんにちは。今回は、「広告」について取り上げようと思います。広告とジェンダー、どう関係あるの?と思われるかもしれません。実はこの2つは深い関係があります。特に広告と自己肯定感やメンタルヘルスには深い関係があり、このウェブメディアのテーマである、「より自分を好きになる」ためには、広告とうまく付き合うことがとても重要です。
目次
あらゆるところにある広告
まずは広告がどれほど私達の生活に溶け込んでいるかを見てみましょう。現代社会において、広告を一切シャットダウンすることは不可能と言えるでしょう。テレビを付ければ流れるCM、街や駅、電車やバス、タクシー、スマホを覗いても広告だらけです。自分は広告なんて気にしない、そう思っていても、こんなに日常的に目にするものですから、購入などの行動に至らなくても、無意識であっても私たちは何かしらの影響を受けてしまいます。無意識のうちに、というのが怖いところでもありますね。
広告が私達に与える影響を、特にジェンダーという観点でもっと深堀りしたい人は、Miss Representation というドキュメンタリーがおすすめです。10年ほど前にアメリカで制作されたドキュメンタリーですが、現在見ても十分当てはまる、というかむしろ日本ではまだまだ語られていない広告の影響について語られています。(私も当時カナダへ留学中に授業で見て衝撃を受けた作品で、ジェンダースタディーズに強く興味を持ったきっかけの一つになった作品です。これの日本版を作成したいなとずっと思っています、、。)
これらの広告に影響されて、広告主の思うがままに商品やサービスを買わされたり、商品を売る側にとって都合の良い価値観を信じ込んでしまったりしないように、早いうちから広告リテラシーを身につけましょう。
今日ご紹介する内容:
- 注意すべき広告の種類
- ネガティブ・ポジティブ広告
- 広告で使われる数字
- これらの広告を見たら
- みんなって誰?
- こどもを有害な広告から守る
- 適切な広告かを判断する基準
最初に広告の中でも気をつけたい2つの特徴について紹介します。①ネガディブ・ポジティブ広告について②広告で使われる数字についてです。
まずは①ネガディブ・ポジティブ広告についてです。ネガティブ広告とは言葉の通り、不安をあおる広告のことで、その製品、サービスを利用しないことで起こるネガティブなことを強調し、製品を購入させる手法のことです。ポジティブ広告はその反対で、その製品を使うことによって得られるポジティブな結果を強調するものですね。過剰に恐怖心を煽ったり、虚偽の内容を述べることは違法になりますので、広告を作る側は、これに当てはまらない範囲で、でも確実に私達の価値観や自己肯定感を攻撃してきます。ポジティブとネガティブだと真逆の広告に感じるかもしれませんが、この2つは表裏一体の関係にあります。例えば、脱毛の広告を例に見てみましょう。
脱毛広告のネガティブ⇔ポジティブ
- 脱毛をしないとキレイではない⇔脱毛すればきれいになれる
- 脱毛をしないと異性からモテない⇔脱毛をすると異性にモテる
- 脱毛をしないとセックスの時に落胆される⇔脱毛をするとセックスの時に落胆されない
いかがでしょう?これら両方同じことを言っていることが分かりますか?ネガティブなことを強調していても、ポジティブなことを強調していても、両方が「女性は脱毛をすべきだ」ということを言っています。これを見た人は女性なら「脱毛をしないといけないんだ」「脱毛をしていない自分には価値がない」男性は「女性は脱毛をするものだ」と思ってしまうリスクがあります。これこそ広告主の思うつぼですね。このような価値観が広まれば、脱毛をする人は増え、製品は売れるのですから。広告には製品と同じくらい、「価値観を売る」という要素もあるのですね。
次に紹介するのが、広告で使われる数字についてです。広告の中でよくあるセリフが、【みんなやってる】【満足度◯◯%】【◯◯%が満足】のような、たくさんの人がこの製品を既に使っています、というものや、消費をつかったほとんどの人が満足していますよ、というものです。ひどいものだと「まだ◯◯使っていないの?」や「まだ〇〇を使ってるの?!時代遅れですよ」のような文言もあります。自分以外の多くの人がすでに使っている、利用していると思わせることにより、焦りを植え付け、購買につなげようとする手法です。
これらの広告を見た時の対処法
これらの広告を見たら、まずは冷静になって、「広告主の意図には乗らないぞ」「製品を購入させるために必死だな」と客観的に分析してみましょう。それでも気になる場合、自分にこう聞いてみましょう。「この製品、サービスは本当に自分を幸せにしてくれるかな?」「他人が押し付けた価値観ではなく、自分自身の意思でこの製品やサービスを利用したいと思うかな?」これらをよく考えた上で、自分自身のために、本当に必要だからという理由で製品やサービスを利用するのは、幸せになるための消費です。
「みんな」って誰?
また、あたかも【みんなこれを使ってる】【これを使わないと遅れてる】ということを言う広告に出会ったら是非考えてほしいのは、ここで言っている「みんな」は誰か、ということです。みんなという言葉は定義があってないようなものですし、%も分母によって十分操作できる数字なのです。例えば、ある保険の顧客満足度が96%だったとします。この数字だけ見ると、非常に満足度は高く、加入する価値のある保険のように見えるかもしれません。しかし、分母がすでにこの保険を契約している顧客なのだとすると、保険は契約する前に既に金額や保証内容が分かっているものですので、契約する時点で他社と比較した上で満足して契約をしている人たちが分母になるわけです。となると満足して当たり前、という考えもできますね。また、分母はもっと意図的に操作もできます。例えばハガキで満足度を調査するのと、ネットで調査するのでは自然と世代に偏りが出ますし、満足度と一言で言っても、製品そのものの質に満足なのか、購買体験に満足なのか、故障した後の対応に満足なのか、それによって数字の味方は大きく変わります。また、〇〇%がリピート顧客、などの数字でさえ、分母を「製品を高評価した人」というくくりにしてしまえば簡単に操作ができます。数字として小さく「製品を高評価した人のうち」と書いて、大きく「リピート率90%!」という風に書く、という訳ですね。
このように「みんな」という言葉や◯◯%の数字でさえ、あくまでも製品やサービスを売るために操作されているのでほとんど意味がない場合が多いのです。このような広告を見た際は是非、「分母」は何なのか、そしてもっと大切なこととして、「みんな」が買っているものだからと言って、私にはそれが必要なのか、を自分に問うて見て下さい。
こどもを有害な広告から守る
上記でご紹介してきたのはあくまでも、広告リテラシーを学ぶことができ、自分で判断ができる人向けです。しかし、その判断がまだできないこどもはどうでしょうか。日本にはこどもを有害な広告から守る法律がありません。こどもはテレビやメディアで見たイメージをそのまま信じてしまい、それがそのこどもたちの価値観へと変わっていきます。この影響を真剣に考え、カナダのケベック州やスウェーデンやノルウェーでは、12歳以下の子どもを対象にした広告は禁止されています。また、ベルギーやフランスでは、テレビ番組とCMの間にワンクッションを設けたり、一定の時間を置いてCMを流す配慮が呼びかけられています。というのも、ちいさい子どもはまだテレビ番組とCMの区別がつかないためです。
適切な広告かを判断する基準
では、適切な広告ってどんな広告でしょうか?また、もしあなたが広告を作る側になった時、どんなことに気をつければいいでしょうか。対象が学内や社内のポスターであっても、マイナーな製品の広告であっても、たくさんの人の目に触れる広告であっても、見る人がいる広告を作る場合は是非気をつけたいことをご紹介します。
①誤解を生む、不安を煽る表現になっていないか
事実の一部が切り取られ、それが全てのようになっていないか、一部の数字だけ切り取って強調し、誤解を生むものになっていないかを確認しましょう。過度に不安を煽るような表現になっていないか、これも社会全体で健全なメンタルヘルスを保つためにも重要です。
②登場する人のジェンダー、国籍などの特徴は適切か
例えば、家族団らんの写真を広告の中で使いたい場合、エプロンを付けて料理をしているのはいつも女性の写真を使う、子育てに関連する写真は女性ばかり、建築系の仕事は男性ばかり、国際的ということを示す際に映るのは白人の外国人ばかり、というように、その広告に登場する人のジェンダーや国籍(見た目)が型にはまりすぎていないか、特定のジェンダーや国籍(人種)のみを対象としているように見えていないかどうかには注意を払いたいところですね。
このような広告が私たちの目に日常的に触れることによって、ジェンダーロールを作り出していったり、特定の国籍へのステレオタイプにつながることもあるからです。
③過度に露出をしていないか
これは特に女性に多いことですが、不要な場面で過度に女性が肌を露出をしている場面が多く見られます。これは女性の体を物化(objectify)していることにもつながっているのですが、女性の露出を気を引くために使うことは女性の自己肯定感の低下にも影響があると言われています(参考)。特に男性がメインターゲットの広告でよく見られます。ビールなどで女性の身体が製品そのものに見立てられたり、バイクのモーターショーに出てくる女性、ボクシングの試合に出てくる女性などもその一つですね。
本日は広告の悪影響にばかり焦点を当てましたが、これだけ広告が浸透している社会で、広告をポジティブに使えることも事実です。例えば、家事や育児を担う男性を、経営層として活躍する女性を起用することによりジェンダーステレオタイプや家父長制を壊す、何歳になっても活躍する高齢者や障がいがあっても様々なことに挑戦する人を描く、など、今の社会の生きづらさを解消するために、広告を作る側が意識してもっと多様な広告ができればいいな、と願っています。
参考文献
- Huffington Post I その広告は、子どもたちへの影響を考えていますか?
- The Conversation I Sexually objectifying women leads women to objectify themselves, and harms emotional well-being
- 国民生活センターI こどもを取り巻く広告をめぐる諸課題