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[2021年6月編] 今月のエンパワメントソングスと使えるフェミニズム英会話 – Pride Month Edition

シリーズ第3弾、あなたを強くする、エンパワーしてくれる曲を、エンパワメントソングスとして紹介しています。今月はプライド月間エディションということで、LGBTQ+ アーティストの曲をご紹介します。日本よりはるかに議論も盛んで、結婚の平等が実現されている国も多い欧米では、LGBTQ+ の当事者が歌う曲だけでなく、そうでないアーティストもミュージックビデオなどでLGBTQ+ カップルを起用していたり、LGBTQ+ コミュニティを支援する楽曲を作成しています。そんな中本日紹介するのは、LGBTQ+ の当事者によるエンパワメントソングス (ここが結構大事だったりします) を集めてみました。早速みていきましょう!


Hayley Kiyoko – Girls Like Girls

最初にご紹介するのは、ヘイリー・キヨコのGirls Like Girls です。彼女はレズビアンであることをオープンにしていて、その名前からも分かるように、日系アメリカ人です。アジア系かつLGBTというダブルマイノリティであるアーティストがこのように活躍しているのは、アメリカでもまだあまり見ませんよね。そもそもアジア系のアーティストは、音楽でも芸術でも映画でも、あまり見ないな〜と思っていた私にとって、励みになる、応援したいアーティストです。

今回紹介する Girls Like Girls という曲は、文字通り女性が女性を好きになるという曲で、ヘイリーの代表曲です。上に貼ったミュージックビデオ を見ていただければ分かる通り、男の子から彼女を奪う、という強気の曲でもあります。それが歌詞にも現れていますので、早速歌詞を見ていきましょう。

 (最初の4行は男性へ向けて)
 Always gonna steal your thunder
 いつでも彼女を盗む準備はできている
 Watch me like a dark cloud
 ちゃんと私のこと見張ってなさい
 On the move collecting numbers
 色んな人から連絡先を聞いているうちに
 I'ma take your girl out
 あんたの彼女をデートに連れて行くわ
 (次の4行は女性、一般社会へ向けて)
 We will be everything that we'd ever need
 私たちは本当にお似合いの2人になれる
 Don't tell me, tell me what I feel
 私の感情について指図しないで
 I'm real and I don't feel like boys
 この気持ちは本物だし、男の子として好きな訳ではないの
 I'm real and I don't feel like boys
 この気持ちは本物だし、男の子になりたい訳ではないの 

I’m real and I don’t feel like boys この気持ちは本物だし、男の子になりたい訳ではないの という部分、社会ではよく、「同性が好きなのは一時の気の迷いだよ」とか、ゲイやレズビアンとトランスジェンダーを混同して、同性が好き=異性になりたいんでしょ、と言われる『あるある』に対して、そうじゃなくて、女性として女性が好きで、気の迷いはないんだ、と言っている部分ですね。

ちなみに最初の steal your thunder は雷を盗むという意味ではなく、大切なものを盗むという意味でも使われる言葉なので、今回は彼女を奪う、という意味になります。次のサビと大サビの部分をみてみます。

 Saw your face, heard your name, gotta get with you
 あなたの顔を見て、名前を聞いた瞬間、あなたと一緒になりたいって思った
 Girls like girls like boys do, nothing new
 女の子も女の子を好きになる、男の子と同じようにね、何も新しいことじゃない
 Isn't this why we came? Gotta get with you
 この瞬間のためにここに来たんだわ、あなたと恋人にならなくちゃ
 Girls like girls like boys do, nothing new
 女の子も女の子を好きになる、男の子と同じようにね、何も新しいことじゃない
 Girls like girls like boys do, nothing new
 I've been crossing all the lines, all the lines 
 あらゆる一線を超えてきた
 Kissed your girls and made you cry, boys
 あんたの彼女にキスして、あんたを泣かせたりもしたわ 

サビ部分の Girls like girls like boys do, nothing new 女の子も女の子を好きになる、男の子と同じようにね、何も新しいことじゃない というこの曲の象徴的な歌詞も、アメリカでもまだ一部で同性愛に対して眉をひそめられたり、最近になって増えてきた存在だと批判されることがあることに対して、珍しいことでもなんでもないんだ、と言っているんですね。

ヘイリーの歌は、その他の曲やミュージックビデオでも(当たり前ですが)女性同士の恋愛について描いているものが多く、ポップで聞きやすい曲が多いので、他の曲やアルバムでも是非聞いてみて下さいね。


Troye Sivan – Heaven

次にご紹介するのが、オーストラリア出身のアーティスト、トロイ・シヴァンのHeavenという曲です。彼はゲイであることをオープンにしており、初期は特に、自身のセクシュアリティに関しての悩みや葛藤をテーマにした曲やミュージックビデオを多くリリースしています。こちらのBlue Neighbourhood Trilogy という3曲をまとめて一つの短編映像にしたミュージックビデオでは、まさに自身がゲイであることと家族との関係に悩む姿が印象的です。(最近ではもっと明るい感じの曲も多いです)今日紹介するのは、エンパワメントソングというテーマなので、こちらのHeavenという曲です。こちらも、ミュージックビデオを見ていただければ歴然ですが、プライドがテーマの曲になっています。歌詞をみると、出だしから印象的な歌詞が多いです。

 The truth runs wild like a tear down a cheek 
 頬を流れる涙のように 真実は暴れまわる
 Trying to save face, and daddy heart break
 面目を守るため、そして父を失望させないため
 I'm lying through my teeth
 僕は嘘をつく
 This voice inside has been eating at me
 でも心の声が 僕を蝕む
 Trying to replace the love that I fake
 この偽りの愛と引き換えに
 With what we both need
 僕らの欲望を満たしながら 

サビまではこのように、自分のセクシュアリティを世間にも家族にも隠している辛さがひしひしと伝わってくる歌詞です。ただ辛さを綴っている曲かと思いきや、サビ部分にかけてポジティブな歌詞に変わっていきます。

 Without losing a piece of me
 How do I get to heaven?
 自分の一部を失わないままで 天国にいくことができるだろうか
 Without changing a part of me
 How do I get to heaven?
 自分の一部を変えないで どうやったら天国にいけるだろうか 
 All my time is wasted
 Feeling like my heart's mistaken, oh
 今まで時間を無駄にしてきて 本当に自分を誤解されていた気分だ
 So if I'm losing a piece of me
 Maybe I don't want heaven?
 だからもし自分の一部を失うくらいなら 僕は天国になんて行きたくないのかも 

日本語だとなかなかニュアンスを伝えるのが難しいので解説させて下さい。まず背景として、聖書に同性愛者は罪であるとの記載があることから、一部の人たちはそれを理由に「同性愛者は地獄に落ちる」などと、LGBTQ+コミュニティを攻撃するということが、キリスト教の文化が根強い欧米ではよくあることなのです。このサビの部分では、そのような批判を受けて、天国に行くためには、自分の一部=ゲイであるという大切なアイデンティティを捨てないといけないのだろうか、と疑問を投げています。そして最終的には、この自分の一部を偽るくらいなら、天国になんて行かなくてもいい、自分は自分のままでいい、と決意をしている歌詞なのです。素敵ですね。


Rina Sawayama – Chosen Family

次にご紹介するのがリナ・サワヤマのChosen Family です。名前の通り彼女は日系イギリス人のアーティストで、かつパンセクシュアルであることをカミングアウトしています。ヘイリーと続き日系で、かつLGBTQ+コミュニティのアーティストですね。そして今回紹介する曲、Chosen Family 、直訳すれば選んだ家族になるでしょうか、Chosen Family ってなかなか聞き慣れない言葉だな、、と思うかもしれませんが、歌詞を見ればその意味がよく分かります。

Where do I belong? 私の居場所はどこだろう?という囁きから始まるこの曲、LGBTQ+ コミュニティに向けて書かれた曲なんです。

 Tell me your story and I’ll tell you mine
 あなたの話を聞かせて 私も教える
 I’m all ears, take your time, we’ve got all night
 ちゃんと聞いているよ ゆっくりでいい 一晩中時間はあるんだから
 Show me the rivers crossed, the mountains scaled
 あなたが渡ってきた川や登ってきた山を私に見せて
 Show me who made you walk all the way here
 誰があなたをここまで連れてきたのかも全部
 Settle down, put your bags down
 安心して、荷物をおろしていいんだよ
 You’re alright now
 もうあなたは大丈夫だから 

優しく語りかけるような歌声で語るのは、まさに家族や社会から阻害されているLGBTQ+ の人に向けている言葉です。大変な思いをしてきた人生の経験を、渡った川や登った山など、成し遂げたこととして表現することにより、その経験や努力を肯定してあげています。その上で、もう私の前では安心して休んでいいんだよ、と包み込むような言葉でサビに向かいます。素敵だ〜。

 We don’t need to be related to relate
 共感するのに血がつながっている必要はない
 We don’t need to share genes or a surname
 遺伝子や苗字が同じ必要もない
 You are, you are
 あなたは
 My chosen, chosen family
 私が選んだ家族なんだから
 So what if we don’t look the same?
 見た目が違っているからって何?
 We been going through the same thing
 同じ経験を乗り越えた来たんだから
 Yeah, you are, you are
 そう、あなたは
 My chosen, chosen family
 私が選んだ家族 

どうでしょうか?Chosen Family の意味がもうお分かりですね。日本でもまだ色濃くある、血が繋がっているのが家族だ、という縛り。その家族から否定されて、変えられない家族のために苦しい思いをしている人たちへ、家族というのは、自分で選ぶものだ、という新しい選択肢を与えています。とても温かい曲です。上に載せているビデオは、エルトン・ジョンとコラボレーションしたバージョンのものです。エルトン自身もバイセクシュアルであることを公表していますよね。

リナの他の曲もおすすめが多いです。エンパワメントソングの文脈だと、STFU! なんかは爽快な1曲で、ミュージックビデオでも「日本人って、こうなんでしょ」というよくあるステレオタイプに対してShut the fuck up! まじで黙れよ と少々キツい言葉で叫んでいるのが爽快です。ちなみに、個人的なリナのベストソングはCherryです。


Tegan and Sara – BWU

最後に紹介するのは、ティーガン・アンド・サラのBWU です。彼女たちはカナダ出身の双子のアーティストで、ティーガンもサラもレズビアンであることを公表しています。彼女たちの一番有名な曲は Closer という曲で、これは耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。今回紹介する BWU は Be with You あなたと一緒にいる、という曲です。実はこの曲、こちらのインタビューでも明かしているように、Anti-wedding song 反ウェディングソング だというのです。中身を見ていきましょう。

 I love you
 あなたを愛している
 I don't need a ring to prove that you're worthy
 あなたの価値を証明するのに指輪なんていらない
 You're under my skin
 あなたはもう私の一部だもの
 It's easy, I don't need a lock to prove that you trust me
 簡単だよ、あなたが私を信じているのを証明するのに鍵なんていらない
 I walk the walk
 ちゃんと実行する

 To be with you
 あなたと一緒にいるために
 Just to be with you
 ただ一緒にいるために 

最初からラブソングではなかなか聞かない言葉ですね。ダイヤモンドの指輪を贈る訳でも、鍵を付けて愛を誓うわけでもなく、そんなものはなくても素敵な関係を築くことができるんだ、という力強い出だしです。ちなみに walk the walk というのは、物事をきちんと実行する、という意味です。似たような言い回しで、talk the talk というのもありますが、これは言うべきときにちゃんと言う、という意味なので、2つ合わせて覚えておきたいですね。次のサビはちょっと訳が難しかったな、、

 Save your first and last dance for me
 最初と最後のダンスは私にとっておいて
 I don't need a white wedding
 純白のウェディングなんていらない
 Save your first and last born for me
 あなたの最初と最後に生む子どもは私のためにとっておいて
 We don't need a white wedding
 私たちに結婚は必要ない
 All the girls I loved before
 今まで愛してきた女性たちは
 Told me they signed up for more
 私にもっと期待してたって言うけれど
 Save your first and last chance for me
 最初と最後のチャンスは私に掛けてみてほしい
 Cause I don't want a white wedding
 だって私は結婚はしたくないの 

Save your 〜 for me というセンテンスと、I don’t need a white wedding という言葉を繰り返しています。Save your 〜は、〜をとっておく、という意味で使われているので、最初のセンテンスは、最初と最後のダンスは私にとっておいて、という意味になります。少し意訳すると、最初と最後に一緒に踊る人は私であってほしい(それ以外は別の人と踊っててもいい)というニュアンスになるかと思います。他の2つのSave your ~のセンテンスも同じですね、あなたの最初と最後の恋人になれるならそれでいい、と言っています。その理由として、Ì don’t need a white wedding となっているので、「結婚」というものに縛られない愛の形を訴えているのですね。結婚という形で愛を誓わなくてもいいし、最終的に自分のところへ戻ってきてくれればいい、みたいな意味もありそうですね。

大サビの部分でも、 Keep your name/ You can keep your dates/ You can keep your fame と繰り返していますが、まさに結婚をすることによって、名前を変えたり、デートする相手を1人に縛られたり、結婚したという評判に左右されることはしなくてもいい、と言っています。

最初に、この曲が反ウェディングソングだと言ったことはご理解いただけましたでしょうか?一つ誤解しないでいただきたいのは、ティーガンもサラも、結婚制度そのものに反対しているわけではなく、彼女たち自身、アメリカとカナダでの同性婚の合法化のサポーターとして知られています。この曲の真意は、結婚の平等が達成された上で、じゃあ自分の結婚感はどうなのか、と考えたときに、自分は結婚したいわけではないな、という個人的な思いが綴られているんですね。


まだままだたくさんいます、LGBTQ+ アーティスト

いかがでしたでしょうか?今回の記事で紹介しきれなかった、LGBTQ+であることを公表するアーティストは、他にもたくさんいます。日本でも有名な Lady Gaga や Sam Smith だけでなく、他にもたくさんいるんです。私がおすすめのアーティストを以下に挙げておきます。リンクはアーティストの Youtube ページに繋がっているので、是非このプライド月間に、LGBTQ+コミュニティの素敵な曲を発掘してみて下さい。

今日までエンパワメントソングスの記事で紹介をしてきた曲たちは、Youtube プレイリストにして公開しています。また、これまでのエンパワメントソングスの記事は、こちらから確認していただけます。

 参考文献
 UPI I Sara Quin of Tegan and Sara explains 'BWU' is an 'anti-wedding song' 

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