LGBT+

同性婚やLGBTQ+に関する誤解を解説 – LGBTは本当に「種の保存に背く」のか –

2021年、やっと、LGBTや同性婚の議論が、日本でも活発になってきました。先日の札幌地裁での同性婚ができないことへの違憲判決や、LGBT の差別禁止までは盛り込まれなかったものの、LGBT 理解推進法案は与野党で合意が取れ今国会での成立に向けて進められています (2021年5月28日の速報で今国会での提出を断念したとのことでしたが)。日本でもやっとこれらの動きが進み、ニュースでも取り上げられるようになってきているのは喜ばしいことです。

しかし、この議論が進めば進むほど、それに比例するように、必ずといっていいほど、どこの国でも、反対意見が上がってくるものです。先日の、自民党での会合で「LGBTは種の保存に背く」「道徳的に認められない」という時代遅れの発言がいい例かと思います。(こちらについては撤回と謝罪を求める署名がされています!)そしてその反対意見はどれも似通っており、全て論理的に、事実に基づいて吟味すると、間違っていたり、反対意見として的を得ていないものです。そこで、本日はよく聞かれるLGBTや同性婚に反対派の意見と、それがなぜ間違っているのか、できるだけ丁寧に、論理的に、事実に基づいて書いていこうと思います。この記事を最後まで読んでいただければ、次から今回紹介する5つの反対意見を聞いた時に、「これは間違った反対意見だな」とか「これは何も分かっていない無知な人の発言だな」ということに自信が持てるはずです。

解説する誤解はこの5つです。順番にひとつずつ解説していきます。

  • よくある誤解その①日本の伝統的家族観が壊れる
  • よくある誤解その②種の保存に背く、少子化に繋がる
  • よくある誤解その③子どもの教育に悪い、道徳的でない
  • よくある誤解その④LGBTの人が増える
  • よくある誤解その⑤生理的に無理、気持ち悪い

よくある誤解その①日本の伝統的家族観が壊れる

同性婚ができるようになったり、LGBT 平等法ができるようなったりし、どんな性別の人も結婚ができるようになると、「日本の伝統的家族観」が壊れてしまう、という意見です。この議論をするには、まず「日本の伝統的家族」とは何を意味するか、ということを見ていく必要があります。この日本の伝統的家族観が同性婚の反対議論に使われていることを考えると、ここでは、妻と夫に子どもがいる世帯(または3世代以上の家族)のことを指しているのだと想定します。となると、この意見の真意は LGBT の人を含む全ての人が好きな人と結婚できるようになれば、1. 夫婦が男女ではなくなることと、2. ふうふに子どもがいなくなることを懸念しているのではないでしょうか。3世代以上の家族は現代では減っているのでこれは同性婚以前の話ですね。1. と2. についてそれぞれ見ていきましょう。

  1. 夫婦が男女ではなくなること:こうなることにより、不利益を被るのは誰でしょうか?どういう懸念が起こるでしょうか?残念ながら私には思い浮かびません。異性を好きになる人は今まで通り結婚もできますし、全ての権利が保証され続けます。ただ、今まで法でカバーできていなかった人たちをカバーできるようになるだけ、幸せになる人が増えるだけなのです。夫婦が男女でなくなることが、何となく嫌なのであれば、それは以下で扱う③や⑤へ繋がります。
  2. ふうふに子どもがいなくなること:これは日本が国として労働力を保って、経済力を保持するという観点で、国益に繋がる問題なので、不利益と考えられるかもしれません。しかし、子どもを作らない男女は結婚してはいけない、という法律はありません。なので子どもを作らないLGBTカップルは結婚してはいけない、という理論は通りません。もし、婚姻制度の主な目的が子どもをつくることなのであれば、望むLGBT カップルには、精子提供や代理母、養子縁組などの制度を改正し、子どもを育てられるようにするのが政治の役割です。それに、同性婚ができるようになることによって結婚ができるようになるのは、今まで結婚もできず、法的に夫婦の子と認められる子どもができなかったカップルが、結婚ができるようになるだけです。今まで独身世帯と思われていた人が結婚ができて「ふうふ」になれるだけですので、子どもがいない夫婦が増える、ことには全く繋がりません

よくある誤解その②種の保存に背く、少子化に繋がる

これは①日本の伝統が壊れるでも紹介した、子どもができないことを理由にする反対意見ですね。上記で説明した通りですが、少子化に実際に繋がるのか、ということに関して補足すると、これまで世界では約30の国と地域が婚姻の平等を実現しています(以下の図参照)。しかしこれらの国で婚姻の平等と出生率の関係は全くありませんでした。そして、よく考えてみていただきたいのです。同性婚が実現されても、現在の出生率をメインで作っている異性同士の結婚はできますし、その人たちが急に子どもが作れなくなるわけではありません。少子化につながる、というのは一見妥当な反対意見に聞こえますが、よく考えると全く根拠がなく、他国の例から見ても間違った想定なのです。

青や水色は同性パートナーを法が承認している国

それ以外にも、例えばバイセクシュアルの人が、これまで異性と結婚し子どもを作っていたのが、同性と結婚してしまうと子どもが作れなくなる、というような議論もありますが、その人にとっての本当に幸せは、本当に愛する相手と結婚することです。国益のために結婚と出産を強制されるのは間違っている、というのは誰でも理解できますよね。(そしてLGBTカップルも子どもを持てるような制度が整えば、望む人は子どもを持てます)

よくある誤解その③子どもの教育に悪い、道徳的でない

(ふぅ。こうもとんちんかんな意見ばっかり、書いてて疲れてきますね。)

これは全く的を得ていない反対意見です。子どもの教育に悪影響、ということですが、これは、自分の子どもはLGBTQ になってほしくない、という親の心の現れなのでしょうか。そうだとすると、LGBTQ であることはその人の選択ではなく、生まれつきのもので自分で変えられるものではない、という事実を理解していないということになります。子どもが LGBTQ のことを知り、理解することは子どもに多様な視点を持たせてくれますし、正しい知識を知ることが間違った差別をしてしまうことを防ぎます。LGBTQ や多様な性について知ることは、むしろ教育にとても良いことです。(性教育にもつながりますね)

また、道徳的ではない、という点に関してですが、その人の生まれつきの特徴、例えば肌の色を取ってみれば分かりやすいですが、現代社会では、肌の色が違っていることを「道徳的じゃない!」と批判することは的外れだし、それを発言した人こそ道徳的ではないですよね。

そしてこの反対意見を唱える人の誤解としてあるのは、同性愛=下品・いやらしい、という間違ったイメージを持っていることもあるのではないでしょうか。LGBTの話は人間の生と繋がっている性の重要な知識であるのにも関わらず、ゲイやレズビアン=ポルノのカテゴリーの一つや性癖の一つのような考えを持っている人は残念ながらまだいます。そのため、LGBTと聞くと、そんなこと、子どもに教えるべきではない、という反応をしてしまうとも考えられます。

もう一つ重要なポイントは、子どもの中にもLGBTQ はいる、という点です。LGBTQ の当事者の数には、ばらつきがありますが、5%ほどいると言われています。もちろんここには子どもも含まれます。多くのLGBTQ の当事者が、義務教育でLGBTQ のことを学んでこなかったことで多くの当事者が「自分は異常なんだ」と勘違いし、子どもの自己肯定感を下げてしまっています。また、教科書に乗っていれば、当事者にとってだけでなく、それを原因としたいじめや差別も減らせます。

よくある誤解その④LGBTの人が増える

こちらも簡単に間違っていると言えます。LGBT 平等法ができて、同性婚ができるようになると、公的に認められることにより、差別や偏見が減り、カミングアウトしやすい雰囲気ができ、カミングアウトをすることができる人は増えます。しかしこれは、元々LGBT だったけれど、差別が怖くてカミングアウトできていなかった人が見えるようになっただけなので、増えるとは全く違います。ここでも、LGBTQ の人たちは選択してそうなったのではなく、生まれつきで、変えられるものではない、ということが分かっていれば簡単に間違っていることが分かりますよね。さらに、カミングアウトする人が増えるようになると、メディアや身近な人で当事者が増えます。差別や偏見は未知のものへの恐怖から生まれます。身近な知っている人にLGBTQ の当事者が増えると、自然と差別や偏見はなくなっていくことにも繋がるのではないでしょうか。

よくある誤解その⑤生理的に無理、気持ち悪い

こちらは議論する価値のない意見です。先程も触れましたが、人は未知のものに恐怖を抱きます。周りにLGBTQ の人がいない(と思い込んでいる)人にとっては、遠い世界の別人で、怖いのかな、と思います。気持ち悪いという意見に関しては、その人の個人的な感情ですね。人が感じる感情は否定はできませんが、気持ち悪いということは全く同性婚やLGBT 差別禁止法に反対する理由にはなりません。むしろ、このような意見を言う人がいることが、差別禁止法が必要な根拠となりえますよね。


いかがでしたか?最後まで読んでくださったあなたは、上記の5つのことを言っている人がいたら、堂々と「この人の言っていることは正しくない」と思えたり「あなたの意見は的外れです」と言えますね。是非このようなことを言う人に出くわした時は、勇気を持って議論をはじめて見て下さい。そして改めて、「あれ、じゃあ何も結婚の平等を反対する理由も、LGBT 差別禁止法を作らない理由もないじゃん」と思ったあなた、是非自分の周りやSNSで発信したり、声をあげて下さい。次の選挙の投票先を決める時にこのことを思い出して下さい。そしてMarriage for All などの婚姻の平等を目指す団体をサポートして下さい。一人ひとりの行動が、未来をつくります。


参考文献

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